代表挨拶

福島県立医科大学疼痛医学講座 矢吹省司

2020年に国際疼痛学会(IASP)から痛みの定義の改訂版が出されました。その和訳を日本疼痛学会が行い、「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」としました。これからわかることは、1)組織損傷はあってもなくても良い、2)感覚としての不快な体験であり、かつ情動としての不快な体験、が痛みであると言うことです。

一方、「慢性疼痛」は、痛みの原因となる外傷や疾患が治癒した後にも長期間持続する痛みであり、有害な痛みとして捉えることができます。慢性疼痛には、器質的な要因(身体的要因)だけでなく、心理的な要因や社会的な要因も関与していることがわかってきています(患者さん自身が自覚していなくても)。そのため、慢性疼痛の病態は複雑であり、一つの科・専門の医師や医療者一人だけでは、複雑な病態を評価し治療するのは困難です。多職種がチームとして慢性疼痛に関わる必要があります。

この「厚生労働省 慢性疼痛診療システム均てん化等事業」は、慢性疼痛で悩んでいる多くの国民を少しでも救えるようにと始まった事業です。単年度の事業ですが、始まりは2017年になります。主に、慢性疼痛に関する講演会、慢性疼痛診療に役立つ研修会を行ってまいりました。少しずつ慢性疼痛の理解が進んできていると思いますが、まだ十分な診療体制を構築できるところまでは至っていないのが正直なところです。ぜひ、この事業を活用して多くの医療者に慢性疼痛について知っていただき、一緒に慢性疼痛患者さんを診療し、慢性疼痛で悩む患者さんを一人でも少なくしていければと思います。皆様、よろしくお願いいたします。